〈Note 57-3-4〉住まいの「動線」 「来客動線」は特別な動線

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57-3-4 住まいの「動線」 「来客動線」は特別な動線

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「来客動線」と「生活動線」の質の違い

 一般的解釈での「来客動線」は、読んで字のごとく、自動者である来訪者が移動する経路や軌跡のことを指していながらも、理論やその解説の大半は、受動者である家族の視点が軸になっています。

 つまり、一般的理論では、家族本意の「来客動線」に偏っているのです。

 「動線」の考慮とは、「動線」利用の当事者(自動者)と周りに居る人(受動者)の間に生じる不都合の解消策となる合理性を求める行為なのですから、来訪者の意識や思考にも目を向ける必要があるはずです。
 

住まいの「動線」・ノート一覧
57-1 住まいの長持ちは「動線」で決まる?!
57-2 住住まいの「動線」検討は「知覚価値」を高める起源
57-3-1 住まいの「動線」 分類と解釈
57-3-2 住まいの「動線」「生活動線」は動線の総称
57-3-3 住まいの「動線」 「家事動線」は特別な動線
57-3-4 住まいの「動線」 「来客動線」は特別な動線
57-4 住まいの「動線」「作業動線」とは?
57-5 住まいの「動線」「視聴嗅動線」とは?
57-6 住まいの「動線」 動線の「次元性」とは?

 住まいに「招き」や「もてなし」の質を持たせたいと意識するのであればなお、その考慮は来訪者の立場にも向けられるべきです。

 「来客動線」は、その考慮の軸となる当事者を来訪の受動者(来訪を受ける者)である家族とするのか、招きの受動者(招きを受ける者)である来訪者とするのか、その人称によって180度異なる双方の視方が重んじられることからも、「生活動線」とは一線を画すべき「動線」であると言えます。

 来客の受け入れ策や家族の身構えばかりではなく、来訪者に対する「招き」や「もてなし」、「趣向性」、「遊び」や「愉しみ」、といった要素を住まいに持たせたいと思うのであればなお、来訪者目線での思考は欠かせないのです。
 

 

来客動線の根本と考え方

 「来客度線」を考えるうえで、要点として捉えて置くべきことについて説明します。

 「来客動線」の一般的な理論や解説では、来客が移動する経路や区画のことを指すうえで、「家族のプライバシー」確保を意識し、家族の活動や移動に支障となる来訪者の「動線」との重なりの回避、軽減を目的として構築する「動線」であるとされます。

 しかし、「来客動線」確保の真の観点からすれば、それだけでは事が足りません。
一般的な「来客動線」の解説では、「来訪者の移動」や「来訪者が留まる場所」を観点とする「家族の動線」や「家族のプライバシー」に偏っていて、「来訪者のプライバシー」の考慮が抜け落ちてしまっているのです。

 一昔前に建てられていた多くの家には、来客者専用の独立した部屋があり、「動線」という言葉すら存在していない時代がありました。

 キッチンや食卓、居間などの家族が過ごすエリアからは切り離された位置に、応接間や客間といった部屋が独立して置かれていたので、おのずと「家族の動線」や「家族のプライバシー」だけではなく、「来訪者のプライバシー」までもが確保がされるので、「来客動線」の様な複雑な思考をわざわざ持ち込む必要がなく、むしろその使い勝手を以って長寿命にさえ扱われる住まいでした。
 ⇒挿絵 応接専用の部屋がある家

 現代では伝説とも評されてしまう日本の木造建築の長寿命説は、「動線」の熟考などせずとも確保される「家族の動線」や「家族のプライバシー」の下に肯定されると言っても良く、一定の広さの敷地によって応接間や客間付きの住まいとすることが、「末長く住むことが出来る住まいの礎」である、ということを先代達が熟知していた証であると言っても大げさではないのです。

 しかし、独立した「動線」の元にある応接間や客間を設けることは、相応な敷地の広さがあってこそなし得ることで、敷地に「ゆとり」が必要です。現代の狭小化された敷地では、難儀に転じてしまいます。

 経済発展過程で都市化が進むにつれ、人気と地価が相乗的に上昇する地域では、建売住宅や分譲マンションなどの流行とともに、宅地や住まいのコンパクト化が進みました。

 コンパクト化された宅地や住まいでは、間取りの合理的思考が強く求められるので、家族の生活エリアに来客エリアを混在させざるを得ない事由となって、現代の「動線」の解釈を生じさせるに至っていると言えます。

 建売住宅や分譲マンションの出現は、物価の上昇期に対しては画期的なものであるとの評価はできますが、経済的事情ばかりを重んじ、流行を追い、見境なく行われる敷地の細分化は、住まいに「ゆとり」といったものを失わせる要因となったと言えるのです。

 現代の一般的な住まいでは、キッチンやダイニングとの繋がりのあるリビングに来訪者を受け入れるスタイルが定着化しています。その定着化の要因として、良く耳にする評価が「日本人の生活スタイルの変化」です。

 家族と来訪者の間に、あえて線引きを行わずに、家族が過ごすエリアに応接間や客間としての要素を持たせる思考、いわば住まいの「欧米化」が日本人の意識に定着したからと言われます。
しかし、本当の真の要因は、住まいの敷地の狭小化です。

 敷地の狭小化が家を圧縮し、「もてなし」の間とも言うべく応接間や客間の排除というネガティブの代わりに、広いリビングというポジティブに捉えられやすい「欧米化」というアドバルーンを掲げ、取込み、促進させて行ったのです。

 そのことから住まいの「欧米化」は、経済発展に伴う人の住む地の一極化を背景とした、宅地の狭小化への思考的対策であると言えます。応接間や客間の排除に対し、あえて穿った評価をするならば、敷地の狭小化に対峙するために「欧米化」というポジティブさを表面化させた思考的操作であるとも言えるのです。

 

 

来客動線構築には家族のプライバシー確保

 
 「来客動線」の構築で意識することの一つは、これまでにも述べた「家族のプライバシー確保の度合」です。

 「家族のプライバシー」確保は、「来客動線」構築の基軸です。

 本質的には、独立した応接間や客間を設けることなどが「家族のプライバシー」確保に繋がりやすいと言えますが、合理的スペースに来訪者を招き入れるスタイルの住まいでは、「来客動線」の考慮が重視されることに平行して、家族内での「プライバシー確保のためのルール作り」を認識することも肝要です。

 すなわち、招きの当事者による来訪者への対峙だけではなく、家族各々の立場での思考による対峙です。

 来訪者に対する受け入れ度合や身構え策といった「プライバシー確保の度合」は、家族各々で異なります。

 来訪者が誰なのかによって変わる家族各々の「プライバシー確保の度合」を考えるということは、予測できる来訪者やその相互関係だけでなく、来訪の頻度やタイミング、招き入れるスペース、もてなし度合、来訪者の選択をも計ることまでにも意識が及び、「来客動線」の考慮に平行して考える、家族内でのルール作りが必要なのです。

 ⇒挿絵 予測できる来訪者の例



 

来客動線構築には来訪者のプライバシー確保

「来客動線」構築のために確認しておくべきことのもう一つは、「来訪者のプライバシー確保の度合」です。

 「動線」考慮やルール作りは、家族のプライバシー考慮の視点である一方で、家族には気にもしていないことが、来訪者の立場では気になる場合があるものです。来訪者は、自らのプライバシーのみならず、訪問先家族のプライバシーも意識しています。

 他人の家に来訪者として上がったときに、自分のプライバシーを守りたい感情や相手のプライバシーに踏み込みたくない感情を抱いた経験は、誰にでも一度はあるのではないでしょうか。

 人それぞれに持ち合わせる謙譲さや作法、生活習慣などの違いによる感情の差異があることを否定できませんし、その家の「動線」を介してめばえる感情が、その住まいや人への評価を良くも悪くも変えさせているのが現実です。

 住む人自らが、自らのプライバシー考慮による視点で「来客動線」を構築することは、想像に容易いものですが、来訪者視点での想像には、その機会を意識して得ようとしない限り及びにくいものです。

 例えば、トイレがリビングの隣に見える位置にある場合、家族にとっては移動距離が短く使いやすいと評価されている「動線」が、来訪者にとっては、距離の短さによって引き起こされる自分のプライバシー確保への不安を拭えずに、利用を控えてしまうようなこともあるでしょう。

 また、訪問先の家族が団欒し食事をとっているダイニングエリアの前を来訪者が移動する様な「動線」では、例え家族は気にせずくつろげるとしても、来訪者には気が引けてしまう「動線」かもしれません。

 場所、時間、来訪者の質(関係性)、家族それぞれの立場など、双方の視点からどのようなプライバシーに配慮するべきかを想像することが、住まいの検討には、強いては「来客動線」の検討には必要なのです。
 
 

もてなしの度合が来客動線の評価を変える

 「来客動線」の構築で更に確認しておくべきことは、一般的な「来客動線」の概念にはあまり見られない考え方となる「もてなしの度合」です。
先に述べた、「来訪者のプライバシー確保の度合」も「もてなしの度合」に含まれます。

 「来客動線」の構築に於いて「もてなしの度合」を考えることは、自己満足に偏らない「来客動線」の構築に寄与します。住まいの価値をより高める為にも重要な過程ですので、「来客動線」の構築の際には、来訪者の立場での「動線」考慮は、特に重視したいポイントなのです。
 ⇒挿絵 来訪者移動範囲のステージ(表)

 


 

 とは言え、来訪者の立場での動線考慮は、他人の心情を想像することに値しますから、そう簡単なことではないという意見があるかもしれません。

 「郷に入っては郷に従え」といった諺がある様に、大抵の来訪者はその家のルールや家主の招き入れに対し、本心とは裏腹に応えることが想定されますし、「親しき仲にも礼儀あり」と言われる様に、例えそれが気心知れた関係であっても、礼儀や遠慮が生じることは常識の範囲であると誰もが捉えている局面もあり、そのルールや招き入れに対する来訪者の本当の心情は分からないからです。

 しかし、ここで論じている「来客動線」の「もてなしの度合」とは、その住まいに持たせる要素としての「もてなし」の度合です。

 つまり、間取りや「動線」に持たせる「もてなし」ですから、貴方の心情や対峙スキルとしての「もてなし」とは別物です。

 もちろん、貴方の「もてなし」の心情や対峙スキルは、その「もてなし」を実行する際には要となりますが、住まいに「もてなし」の要素がなければ、どれだけ貴方に「もてなし」の心情や対峙スキルがあっても、来訪者には「もてなし」を受けたという感情よりも、申し訳無さや遠慮の心情の方が強くめばえてしまうかも知れないのです。

 例を挙げるとすれば、応接間や客間の無い家の家主が、来訪者をもてなす目的で、ダイニングで茶菓子や食事を提供する様な場合です。

 例え家主と来訪者が、ある程度の親密度の間柄であったとしても、着座を勧める場所が他の家族も過ごすダイニングであるならば、家族の団欒の邪魔をしてしまうと来訪者には感じられるかもしれませんし、それが食事時と重なるタイミングであるならばなお、家族が来訪者の退席を待っているのでは、と、家主の「もてなしたい」という心情は、来訪者の遠慮の心情のめばえによって、半減して受け取られてしまうのです。

 応接間や客間があったとするならば、「家族の動線」や「家族のプライバシー」の確保も、「もてなしの度合」の引き上げも容易となると言え、用法や家族内ルールに委ねる度合が少なくも済むのです。

 つまり、住まいにおける「もてなし」とは、来訪者を「もてなす」人の心情や対峙スキルが要でありながらも、住まいの「来客動線」に持たせる物理的な「もてなしの度合」が基軸にあるということです。この基軸をどの様な形でどの程度住まいに用意しておくかが、「来客動線」検討の要点となるのです。

 

もてなしの度合を高める趣向性・楽しみ

「来客動線」の構築に於いて「もてなしの度合」を考える上では、「動線」に「趣向性」や「楽しみ」を持たせる視点での検討も有効です。

 来訪者が自分本位で気兼ねなく通れたり、利用したり、過ごせたりできる経路や区画の考慮や、その経路や区画に「遊び」や「ゆとり」を取り入れることは、来訪者と家族双方の「プライバシー確保の度合」の引き上げに繋がるばかりではなく、その家で過ごす来訪者の「楽しい」という感情による評価を伴って、自らの住まいに対する感情としての評価も高まるのです。

 いわば、ゲストハウスと呼ばれる様なジャンルの家は、来訪者への「もてなしの度合」が高い家です。居心地の良さに加え、その家で過ごすことが「楽しみ」にも感じられるのです。

 例えば、家族のプライベートなエリアを通らずに済む位置のトイレや洗面所であれば、お互いのプライバシーが守られる感覚が生じ、来訪者は気兼ねなく利用が出来るでしょう。

 通される独立した応接間や客間が、ポーチやウッドデッキなどの外部に直接面する位置と「動線」にあれば、特に来訪者が寝泊まりする場合などは、「もてなしの度合」が高まると言えます。

 さらに、会食やバーベキューなどが行えるポーチやウッドデッキであれば、宿泊施設にも似たそのロケーションを以って、「もてなしの度合」が高い住まいであると来訪者は感じることでしょう。

 もっとこだわれば、浴室を含むこのトイレや洗面所が、来訪者が専用利用するための設備であったり、冷蔵庫やクロークの完備に加え、貴方の「もてなし」への対峙スキルとも言える、リネンや洗面セットの用意などがなされていたりすると、より「もてなし度合」を高めることができるわけです。

 このような、「来客動線」に「もてなしの度合」を高めた住まいであれば、自己満足に偏らない住まいの構築に少しでも近づくことになります。

 他人からの賞賛が得られることとなれば、自らの「心もち」である住まいの価値を高め、末永く住んで行きたい住まいとなることに繋がると言えます。

 もちろん、敷地の条件や建てる人それぞれでの優先度合に違いはあります。自分には期待どおりと言えない「来客動線」になってしまう場合でも、ルールや用法といった対峙方法の検討を含めた「来客動線」の熟考によって、自らの住まいの評価を高めることに繋がるのではないでしょうか。

 

来客動線考察の視点

  1. 家族のプライバシー確保
  2. 来客のプライバシー確保
  3. もてなしの度合い

 

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